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Policy Of 3と「EMO」


現在のPolicy Of 3の面々。

Ebullition作品を定期的に入荷しているのだが、今回のコラムはそのEbulltionリリースのバンドの中でも特に「厳格なEMO」存在であるPolicy Of 3について取り上げてみたい。
Ebullitionが2004年に編集盤CDをリリースしたこのバンド、「後に400YEARSを結成するメンバーが在籍していた〜」という語られ方をしているけれど、もちろん400YEARS関係なく彼らの存在は、Ebullition等を中心とするアンダーグラウンドなEMOをサポートする人間にとって重要なバンドだったことを伝えなければならない。

■ Policy Of 3とは
Policy Of 3は1989年にアメリカのニュージャージーで結成された激情黎明期の最重要バンドのひとつだ。
メンバーはJeff Fisher (guitar/vocals)、Adam Goldstein (guitar/vocals)、Bull Gervasi (bass)、Chris Fry (drums)だ。バンド名からしてスリーピースバンドだと勘違いしてしまいそうなのだが、親友だった4人のキッズによって結成された。
実際の活動期間は1993年〜1995年と短いが、2枚のEP、そしてLP、Ebullitionのコンピレーションに参加するなどして、現在は2枚組のCDの編集盤がリリースされている。バンドとしても長期に渡るアメリカツアー、ヨーロッパツアーを行っておりEMO厳格派の中でも人気が高く、決して知る人ぞ知るオブスキュアなバンドではない。
バンド名は1930年代に中国国内で活動していた、非暴力、富裕層からの独立を説く思想グループに由来する。それと関連してか、歌詞は政治、社会問題、菜食主義の問題を取り上げつつ、自分自身の内面についても掘り下げており啓蒙的なバンドと言えるかもしれない。


※ 子供の頃の自分の内面を掘り下げた「9 Years Old」、対照的に大人になって社会に適合していく姿を歌う「Twelve Years Down」という曲もある。

■ Policy Of 3の音楽性
彼らは1980年代後期からのDischord周辺バンド等からインスパイアされたミッドテンポなサウンドを軸にしつつ、様々なカラーの楽曲を世に残している。不協和音のようなアンサンブルと、ディストーションのザラついたサウンドによって醸し出される不穏な空気をまといながら、制御できないような感情を叫び続ける様は、レコーディングされ調整された音源とは言え、何か得体の知れない狂気を感じてしまう。
90年代のフライヤーでの紹介文も面白い。「Rainbow colored emo」と書かれている。
虹色のEMO!?
つまりそれほど様々なカラーを持っているという意味なのだろう。
他には「political SxE emo」と書かれているものもあった。前述した通り、ポリティカルな姿勢を持って活動していた彼らは多くの社会運動家のイベントにも出演するまでになっていった。


■「音楽性」と「思想」
しかし、気になるのは彼らの音楽が果たして今現在語られているような「音楽性」と「思想」によって評価されていたのだろうかという点だ。
確かに彼らの活動していた同時期にEmo-Violence化する以前のハードコアの新しい流れがあったとはいえ、レボリューションサマー期のようなサウンドを90年代にやったとして目新しさがあるわけでもない。そしてパンクハードコアシーンにおいて、左翼思想で社会問題をテーマにした歌詞で、っていうバンドなんて山ほどいるのだから彼らがそういった点だけで評価されていたとは考えづらいのだ。
Policy Of 3の核にあったものは何だったのだろう。

■ Ebullitionのテキストから見えるもの
この時代のハードコアシーンについて書かれたものはネット上にもほとんどないので、ここから先は想像力でカバーしていくしかない。
そして、悩んだ時は「Back to Ebullition」、基本に立ち返っていくことが必要だ。オーナKentの鋭い洞察に溢れたテキストにはいつもヒントが転がっている。
Ebullitionのホームページ上でオーナーKentの音源紹介文を改めて読んでいるとあることに気づいた。それはこんな1文だ。

「long before emo was turned into frivolous pop punk. This double CD anthology captures all of their studio mater」

この二枚組のアンソロジーCDはEMOが軽薄なポップパンクに変わっていくずっと以前のものだ...というニュアンスの一文だ。
特に強調されているわけではない、なにげない1文なのかもしれないが注意して読んでいたら、以前は見落としていたが、「これこそがEbulltionが伝えたかったことなんじゃないか!?」と思えてきた。
「音楽性」と「思想」、そしてもう一つの重要な要素「時代性」である。

■ 1990年代EMOを取り巻く時代性
RITES OF SPRINGや、MINOR THREATを解散させたイアンマッケイのEMBRACE等によって盛り上がったポストハードコアが「EMO-CORE」を呼ばれ(当初は否定的な意味として捉えられていたとはいえ)その後ジャンルが確立されていった一方で、泣きの要素のある「ポップパンク的なEMO」がムーブメントになっていくのも、この90年代という時代である。
もちろん、こういった「泣き」の音楽性もEMOなのだが、1994年にSunny Day Real Estate、Weezerが登場すると、ハードコアの歴史など知らない世間一般ではまるでそれだけが「エモ」であるかのように言われ始め、ムーブメントの中で似たようなコピーバンドが大量発生したことは想像に容易い。
そう考えるとKentがその状況に対して怒っていたのは理解できる。
そうじゃねえ、こっちのほうが本当の「EMO」なんだよ!という主張は当時からあったからこそ、軟化していくEMOシーンの中で厳格な主張を掲げていたPolicy Of 3の姿勢に、EMO厳格派のリスナーも共感したのだろう。90年代初頭のEMOがポップ化していく流れに抗いながら、作品を残し、先人達のEMOが持つ厳格な要素を後世に伝えていったという点で、00年代のDIYシーンで発生するEMO-VIOLENCE、激情ムーブメントへの橋渡し的な立ち位置としてもPolicy Of 3は重要なのだ。
残念ながらこれらの音楽性のバンドは現在EMOのコーナーではなく、パンクの棚に分類されているが。



■ 作品によって後世に伝わっていくEMO
「EMO」と呼ばれ始めたポストハードコアに勝手に共鳴し、自分たちの可能性をそこに見出したニュージャージーの若者たちの愛憎入り交じった拡大解釈は、オリジネイターたちが提示したハードコアの本質的な部分を理解していたからこそ。
また、彼らはしっかり作品を残していたからこそ、こうして現代でも作品として生き続けているのも重要な事実だ。どんなに良い曲を作っても、誰かに伝わらなければハードコアでやる意味がない(自分の中だけで楽しむなら、それは芸術でなく趣味である)
1990年代に作られた彼らの楽曲によって、今現在でも何か感情を煽られる人間がいる。それがEMOなのだ。

■ 余談
Policy Of 3は厳格派だと思っていたが、7インチのB面のラベル面に笑顔でダブルピースしているメンバーが堂々とプリントされていることは驚きを禁じ得なかった。彼らは親友同士で結成されているだけあって、かなり仲が良かった模様。


関連作品:
Anthology / POLICY OF 3 (2CD)

Ebullition関連作品一覧: http://longlegslongarms.jp/music/products/list.php?mode=search&category_id=&maker_id=162&name=&search.x=56&search.y=12

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