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Interview with Detrytus

孤高のDischordantサウンドを作り上げたDetrytusが2015年に発表した2ndアルバム『THE SENCE OF WONDER』。正直私自身もまだまだわからない事が多いと感じているが、本作のアルバムだけでなく未だ謎の多いバンドの全貌に迫るべく亀井氏(Bass)にインタビューを敢行しました。twolowでは共に音を鳴らし深い付き合いをしているがDetrytusとしてはここまで深く踏み込んだ話をしたのは初めてなのでぜひ最後まで読んで頂きたい。
(携帯でも読み易いmedium版はこちら)



Q:本日よろしくお願いします。

亀井(以下、亀):よろしくお願いします。

Q:DePonのインタビューを読んで、このインタビューはちょっと初心者向けではないなと思ったんですよ。既にバンドを知っていて、っていう人向けのような気がしていて。ウチでやるならDetrytus知らない人とか名前知っていても聞いたこと無いという人が多いと思うから最初はありがちな質問とかもして後半のほうで新作、バンドのコアな部分を聞きたいなと思います。
僕はDetrytusについては一番わかってない人、完全にDetrytus素人みたいな感じなんですけどDetrytusってどんなバンドなんですか?よく目にするキーワードとしては『Dischord』(※1)っていうのがあるんですけど。でもメンバーがそのDischord感をガンガンだしているわけではないじゃないですか。


亀:確かに始まりは「みんなでひとつのものに憧れて集まった」という共通項はもちろん皆ある。そこがDischordとTouch&Go(※2)とか…。

Q:それはもう結成の時点で?

亀:そう。それが好きで、そこでひっかかって皆で集まったからそれは誤解ではない。始まり方はそこ。

Q:始まった時点でそういう音楽性でやりますみたいなのは出来ていたってことですか?

亀:いや、音っていうよりは「一貫した雰囲気」というのは想い描いていた。

Q:そもそもメンバーはどうやって出会ったんですか?

亀:それはもう…mixiですよmixiページのプロフィールに好きなバンド書いてたら「俺も最近上京してきました。俺も好きなバンド似てるんで」ってギターの奴が連絡してきて。それと同じタイミングで俺は俺で別の人にもメールしてたら俺にメールしてくれた人と俺のメールした人が実は高校からの同級生で繋がってて。要は、仙台から別々のタイミングで上京してきた顔見知りの二人が「バンド一緒にやろうぜ」って言ってたところに俺が加入したという感じ。

Q:それいつごろの話ですか?

亀:2007年の6月くらいかな。Mixi全盛期。Twitterとかもあるかなかったかくらいの。

Q:その当時のmixiのコミュニティとか結構交流とかありましたもんね。あれーすごい面白かった。初期のmixiは俺相当評価してます。

亀:距離感がちょうど良かったかもね。今と違って。近すぎず遠すぎず。

Q:で、結成したのが2007年で…。

亀:初スタジオは7月くらいじゃないかな。Joe Lally(※4)来日してすぐに入ってたのを覚えている。最初のライブは2008年の2月2日、明治大学の広いところ…document not foundの福里君(現asthenia(※5))が明治大学の学生で卒業前に企画をやってくれて、でDetrytusも出なよって誘ってくれて。

Q:その時点で既にそのシーンと繋がってたんですか?

亀:その時のDetrytusのドラムはDocumentのドラムだったんですよ。要は身内のパワーで初ライブに出るという。

Q:そうか。じゃ今のメンバーはオリジナルメンバーじゃないんだ。

亀:そう。その前のドラムは今、THE SUNSETBOULEVARD(※3)とかelicaとかやってる。

Q:最初から結構ジャパニーズエモなあの辺のシーンに躍り出たって感じだったんですか?

亀:俺以外は、というかギターの奴は仙台でCrime Against HumanityっていうバンドやっててそれはSleepytime Trio(※6)みたいな感じだったかな。多分そのバンドでMedications(※7)が来たときに仙台で対バンもしてるはず。だから割と仙台バードランドでちゃんとやってきた奴だから、あながち全員初めて、みたいな感じじゃなくて。俺だけ初めて。俺は本当にDetrytusが初めて本格的なバンド活動。大阪時代は少しやったりしたけど本格的な感じじゃなかった。ドラムがいないから俺が仕方なく叩く、みたいな不本意な感じ。その間フリーターで、親のメシを喰うのも嫌になって。それで東京に出て来て、25歳くらい。

Q:就職とか転職でもなく。

亀:何にもなし。本当にバンドのメンバー募集しに東京に来た。

Q:クソ熱い。

亀:しかもバンドでプロになりたいとかじゃないからね。ただ単にバンドやるためにっていう・・・。大阪にもシーンはあったけど何故か俺はそこには居なかった。いや、大阪に居たんだけど情報もなくて俺はそれを知らなくて。で、雑誌とか読むと東京の話がいっぱいあるから、東京に行けば何とかなるかなと。東京来なかったら人生ヤバかった。

Q:東京に来てすぐにバンドができて、ライブも決まって。

亀:その初ライブが明治大学でkillieとかheaven in her armsとかも出ててお客さんも100人くらいいて。

Q:ヤバいじゃないですか。映像ないんですか?

亀:あるよ。ベース始めて6ヶ月くらいのライブ。Detrytusでベース始めてるから半年くらいでライブしてるんだよね。元々ギターを弾こうと思って、ギターだけ持って東京来たから。それで宅録用にベースも買ってた。で、ベース募集してたからベースで入ろうって。需要があるから。俺は楽器云々じゃなくてバンドができたら良かったから。巡り合わせも良かった。ギターの奴の上京したタイミングも俺の数ヶ月後で近かったし。

Q:初ライブが2008年で、1stアルバムまで少し時間ありますよね?

亀:2011年かな。

Q:その1stに僕の持ってるDetrytusのイメージの音みたいなのがある。

亀:割と最初からあの方向性だったかな。1stアルバムの頃ってすごく素直に憧れたバンドの音に近づきたいみたいな感じで、憧れが強いままやっていたから、最初に持っていたイメージを音にしていた。

Q:その当時似た様なバンドって周りにいました?居たのかもしれないけど俺は全然知らんかった。

亀:「Dischord」って書かれることあるけどDischordってめっちゃ幅広いからね。実はつかみ所がない。80年代、90年代、00年代で全然違うから。80年代のDischord好きな奴と好きなところを言い合って全然話し通じなかったりするし。

Q:segwei(※8)もそういう書かれ方するけど違いますもんね。

亀:うちもDischordめっちゃ好きだけど、それだけが好きなわけじゃないし完全にそのものになれないし。Dischordの何もかも全てが大好きってよりはすごく狭くてピンポイントな部分に自分たちにとって物凄く大事なものが詰まってて、そこに魅了されて、そのピンポイントに焦点を絞っているという感覚。だからそう書かれる事(Dischordの影響うんぬん)は間違ってはいないし否定もしない。読んだら「あーそうかなー」と思うくらい。あと「90年代」っていうキーワードもよく言われるけど、バンド内ではそういう「○○年代が」って話はしたことない。

Q:僕の中では「Detrytusって何なんだ」っていうのがあって、つかみ所というところでなんとか自分の中で知っているものと照らし合わせていくと分かり易いところというと、そういう言い方になるんだけど。多分違うじゃないですか。要素としてはあるけれど、それだけで言い切れないところがあって。何を目指しているんだろうという。

亀:たぶん一番最初から今も一貫してあるテーマというか理想の形って、激しく無い音楽なのにもの凄い緊張感に包まれている、そういうものを今も求めている。激情、オルタナみたいな落ちるところ上がるところ素直な起伏がある音楽じゃなくて、一見クリーントーンなのに凄い緊張感と言葉にできない激しさが入ってるみたいな。そういうのを皆で共有しようと思って頑張ってた。

Q:そこはメンバーで話し合って?

亀:なんか自然とそこの興味がメンバー皆同じだった。それは最初から「それが良いよね」っていう共通言語みたいな感じ、それは今もそんなにブレていない。迷う時期とかもいっぱいあるけど。曲の出来ない時期とか。でも結局やりたいことはずっと皆同じというか。Dischordで好きなバンド、Hoover(※9)とかあの辺のバンドってフレーズとかはたいしたことないのに、なぜか独特の緊張感があって・・・それをどうやって出しているんだろうというのを探って、追い求めていたっていうのはあった。

Q:それが1stアルバムだったと。というか今も?

亀:1stと2ndはモチベーションというか取り組んだ時の姿勢というのが違うけど、3人の追い求める理想の雰囲気みたいなものはブレてない。


Q:1st出した時の周りの反応はどうでした?俺はその時既にポストロックとか聞いてたはずだけど知らなかった。見てるシーンが少なかったかな。

亀:割と日本には居ないタイプとは言われたりした。俺らが出て来た時期にはすでにBright and dark side(※10)がライブしてなかった。俺等はそのバンドに近いと言われていて、凄くカッコいいんだけど、そのバンドがライブをやらなくなったら俺等が入れ替わりで出て来たと言われた。「このシーンにはいつも1バンドだけそういうバンドがいる、それがお前等だ」って言われた笑

Q:一子相伝みたいな。継承されちゃったのかな…。

亀:今は知ってるけどその当時は知らなかった。活動し始めた頃に凄く言われて。

Q:Dischordとかもそうですけど好きな人いるんだけど、そういうバンドが少ない。

亀:いや、たぶん俺等の聞いているポイントが、「同じもの聞いても俺等がズレているのかな」と思う事はある。絞るポイント違うのかなと。聴き方が、なんか裏側から聞いてるみたいな。

Q:それって結構Detrytusの音を考えるにおいて分かり易い説明かもしれませんね。

亀:俺等はざっくりとした全体の雰囲気とかを聴いてる。Hooverのドラムのやつが後にFunkみたいなバンドをやるんですけど、何がカッコいいのかと考えるとDischordのバンドでもそういったFunk要素を感じたりするからカッコイイんだという話になって。そっから、じゃあJB’s聴こうぜって話になる。

Q:そっちいっちゃうんだ。

亀:そう。メンバーとJB’s聴いたりしてスタジオでもっとファンキーな曲を練習しようとしたり。もっと中の方に入ったところでアプローチしたいねって話しをして。・・・Detrytusのメンバーはみんな演奏がそんなに上手いわけじゃないので、演奏上手い人達から見れば対したことは出来てないけど、でも下手なりに皆で一生懸命考えて話してた。ベースに関してもハードコア的なものを練習するんじゃなくて、Funkの音楽をもっと練習することで好きなDischordのハードコアバンドの深みに繋がるのかなという解釈を自分で勝手にして。真正面から行っていないというか。別の音楽をやっていた人がその音楽に入り込んだときの違和感とかも、緊張感に繋がると思うし。Helmetもそうじゃないですか。

Q:アカデミックな人ですもんね、あの人も(※11)。

亀:Dischordのバンドもコピーするけど、それと同じくらい他のジャンルも練習して。好きなバンドに影響を受けたとしてもそれを表面だけ頂く様なアプローチも浅いかなというか、そのバンドが何を聴いてそれを作ったのか、というところまで考えないとこっちもソレ相応のものを引っ張り出せないからという話もメンバーとしていたし。そういう捉え方をしないといけないんじゃないかと思って。なぞった様な音を出しても底の浅さは見えるじゃないですか。そのバンドの奴が何を聴いて、何を考えてその音を出していたのかというところまで考えを巡らすと、目の前のものだけを追いかけててもダメなんだなと。中にあるものをもっと引っ張り出そうと。

Q:ルーツか。

亀:俺らがカッコイイなと思うバンドはみんなそれぞれのルーツの音楽を辿っている。それが好きな理由でもある。初期衝動のもっと先に行こうとしているバンド、でも初期衝動から始まっているから面白い違和感も出ていたり、そういう情熱と探求の塊が本物を超える瞬間なんかもあって。自分達も本物だとは思わないけど、やっているうちに一瞬でもそういう瞬間があるのなら、楽しんでやれるというか。

Q:それが、バンド内の文化みたいな感じなんでしょうね。

亀;今のドラマーの奴を誘ったのもmixiでスカウトしたんですけど。「東京」「ドラム」とかで検索して、ひとりひとり足跡つけて、その人の入っているコミュニティ見て。で、今のドラマーの奴は「HARDCORE」と「Funkaderic」(※12)に入ってて。ハードコアとファンク聴ける奴だと思ったからメールして。

Q:ドラムの方はバンドやってたんですか?

亀:やってなかった。

Q:ドラムも素人なところから始まっているんですか?

亀:たしか小学生のときから少しやってて中学生のときは自分でドラム叩いてデモテープとかも作ってたらしくて、俺等とバンドやるとなって久しぶりに叩き始めたみたいな感じで。だから素人ではなくて。勘が良いというか、初めてのスタジオのときでコイツわかってるなーという。

Q:この前のSunday Bloody Sunday(※13)の冨永さんと話していたけど、海外でも日本でも分かり易いものが流行るじゃないですか。初期衝動!とか激しい!重い!暗い!とか極端な形のものが。そういう流れとは違うから、多分つかみ所がないと思われがちだけど。

亀:俺は周りのバンドのほうがもっと複雑なことやってるなと思う。うちは拍数とかはちょっと変拍子入ってたりするけど、音楽の作りはオーソドックスで、リズムはきちんと2拍4拍を大事に、リズムの表と裏をちゃんと理解しましょう、あとは意味もなく変な事はしない!という感じ。ドラムとベースはきちんと音楽的にやろうと。リズムの取り方も拍の事、リズムのノリとか、普通の考え方で作ってる。

Q:真面目っすね。

亀:真面目なんだよ。それが良くないときも、行き詰まることもあるけど。なんて評価されても良いんだけど、こんなに普通なありきたりな音楽の話をして作って出来上がったものを不思議がられるのが面白いなぁとたまに思う。自分達からしたら「変なもの出来たでしょ」みたいな感じではやってないから。普通のダンスミュージックとか作ってるのと同じ感覚だと思うし。もっと変なギター弾いて!とか、ここで変な拍で!とかそういう話はメンバー間でも全然してない。普通で、シンプルにいこうと。

Q:激しい音楽はエクストリームな方向に向かうから。

亀:うちはもう奇をてらわない。変な事はしないし、本当にストレートしか投げてないつもり。コピーしたら凄く簡単な曲だということがわかるはず。奇をてらうバンドって人間性も重要というか、本当にこいつ頭おかしいなという奴がやってたらカッコイイけど、うちは全員頭おかしくないというかみんな真面目な人間だから変なことやっても絶対ださくなると分かってるから。

Q:演じてるみたいな感じになる。

亀:そう、正直に素直にやる。それ以外やりようがない。

Q:では『The Sence of Wonder』の話に入りましょうか。今回ききたいところっていうのは、僕はバンドの1stアルバムのイメージはだいたい分かるんですよ。バンドの初期衝動じゃないですけど、バンドを始めた理由に近いところにあるのが1st。2ndになってくると1stアルバム後の曲になるっていうイメージがあるんですけど、その中で『The Sence of Wonder』っていうタイトルが全面に出て来たこのアルバムは何だろうなっていう。いろいろ分かりにくいという意見もあるようだけれど。

亀井(以下、亀):遡ると、アルバムを作ろうってなったときの会議で3人で話した時に「明るくて外向きな人間がやってる音楽がこんなに暗くて重苦しく聴こえる。でもやってる側の気持ちはポジティブ。その矛盾した感覚をはらんでいるっていうのが自分達の独特な持ち味かな」って、不思議だねって話をしていて。『The Sence of Wonder』っていうのは言葉の意味どおりです(一定の対象、SF作品や自然に触れることで受ける、ある種の不思議な感動のこと)。バンドを何故この3人でずっとやっているのかっていうのは、特定の思想があって集まった訳ではなく、ものすごく「このバンドみたいになりたい!」っていう気持ちも今は通り過ぎてる。それでもずっと一緒にやってるのは、3人で作り上げたこの曲に出会ったときに不思議な感情を覚えるからっていうのが大きいかな。だからその言葉がピッタリあてはまるっていうのがあって。『The Sence of Wonder』っていう言葉に行き着くまでに結構アイデアがあったんだけど、それは最初に話した様な「矛盾」だったりとか「逆説的」なタイトルを付けようみたいな話はしていた。

Q:逆説的?

亀:アルバムに入っているSEの中にもそういう逆説的なテーマがいくつか込められてるものがある。さっき言った自分達の人間性と音楽性の話といっしょで「悲しい意味なのに悲しく無い表現をする」とか、「人生の終わりを匂わす様なタイトルなのに陽が差してくる雰囲気の言葉をいれよう」とかそういう話をしていくうちに『The Sence of Wonder』っていう言葉がポンと出て来て。俺は他のインタビューで何回も「わかんない」っていう表現をしてきたんだけど、この3人でやると何故かこういう音楽性になってしまう。あと、自分達ではストレートにやってるつもりなのに、そういう風に捉えられないとか。色んなことが不思議っていうか。もちろんそれがあるから面白いっていうのもある。だからこれを聴いた人がどんな反応をするのかっていうそういうところもまさに『The Sence of Wonder』だなーと。

Q:1stから結構時間がたってるけど初期の曲はもうライブではやってない?

亀:今回のアルバムは録音自体は2014年だから録音が始まるまでに3年。初期の曲は時間的なところでできない。スタジオで練習する時間がない。今の曲を練習してると1stの曲まで練習することはないというか。

Q:例えば、ミュージシャンだったら昔の曲と今の曲をまんべんなくやる人と昔の曲なんて恥ずかしくて歌えねえよっていう人もいるけど、でも後者な意見で1stの曲をやらないわけではないんですね。

亀:半々かなぁ。やるとしてもそのままではやらないかも。もっとこうしたいとか今だったら出てくるから。でもそれをこうしたいって言って変えていく時間がない。そのままやるしかない。でもそのままやるんだったら気になるところもあるかなっていう。

Q:そういう話を聞くと2ndっていうのは、1stの方向性と大きく変わった訳ではないと思うんだけど。

亀:方向性は同じで幅が広がった。技術的なレベルが上がってやれることが増えた。音楽の聴き方がより深いところまで聴ける様になってきたというか。昔より音楽の基礎的なところを皆が聴ける。リズムの取り方とか曲の構成とか。根幹な部分をちゃんと聴ける様になってきたから、自分達にもそれを応用できるようになってきたから、1stの頃より今のほうができてるかなって思うし自分達の方程式が出来てきた。それはCrypt cityと出したスプリットのときから解ってきたかなぁ。



Q:共感をするような音楽じゃないっていうようなことも話していたじゃないですか。共感とかじゃなくてもっと深いところで自分達を出してる。

亀:いろんなタイミングが重なって自分達と向き合う時間が出来たっていうか。それまでバンドやってる時って自分達でどう観られているかっていうのはそこまで考えないし分からないよね。どれぐらいの人に気にされてるかとか。見えないじゃない。アマチュアだし。数年やってるけどフィードバックをあんまり感じない環境にいるから分からないよね。そこであのスプリットが出て、これは結構良い曲できたなと思った。これは結構新しいところ、俺たちを全く知らなかった客層に届くんじゃないかと思えて、面白い反応なんかを期待したんだけど….。

Q:どこのレーベルから出したんでしたっけ?

亀:自主よ。Crypt cityとDetrytus、お互いの自主レーベルの共作としてお金出し合って流通して。2マンでレコ発もして。やったんだけど、それからほとんど何もなかった。何の反応も感じなかった。作ったのが300枚で即無くなったんですよ本当に。たぶんほとんどCrypt cityのファンだろうから少なく見ても200枚くらいは知らない人が聴いてくれた筈なのに直接感じるようなリアクションは何もなくて。そこで初めて自分達の現実というか、世間が自分達にどれくらい関心あるのかっていうのがすごくリアルに分かった。あ~こんなもんか・・・って。それで、俺はけっこう落ち込んだりもしたけど、じゃあその次アルバムを出そうってなったときに「どういうモチベーションで出そう」っていうのを考えた、自分の中で。そうなったときに凄くクサい言い方になるけど「自分の魂が喜ぶ音楽をやらないと、これはもう続けられない」って、モチベーションに行き着いた。スプリット出した時は「もっとバンドの名前を広めたい!」って気持ちが俺は強かった。けど、そういうモチベーションで次のアルバムを作るのってどうなのかな、それってなんなんだろう、と。もっと自分達の根幹をしっかり刻み付けて、ずっとそれが染み付いて残るような、そういうことをこの人生の短い期間で、「自分の人生を肯定するため」という気持ちでやらないとこれは本当に意味ないなって思って。まずそういうスタンスになった。そこで他者のことを切り捨てるわけじゃないけど、もっと自分に向かい合うべきなんじゃないかとそこで初めて考えることができた。これはあくまで俺の中の話だけどね。他のメンバーはもっと違うモチベーションだったかもしれないし。

Crypt city とスプリット出したのが2013年で、そのしばらく後からアルバム録音に突入するまで、集中して曲を制作する時期っていうのがあって。セブ(Crypt cityの元ギタリスト)がカナダに帰ることになって、セブとはずっとアルバム作ろうって約束してたから、じゃあセブが帰るまでの残り日数からレコーディング日数とか逆算して、だいたいこれくらいの期間は集中してやらないといけないねって話になって。で、他の2人は日程調整難しいから俺が他のメンバーにスケジュール出させて、2人の都合が良い日に合わせて俺が有給を入れて、昼から夜まで毎回7時間くらい休憩なしでスタジオ入るみたいなのを定期的にやるとかしてた。最初の頃は月1回とかだったのが最後の方は週1とかで入って。会社から「あいつ毎週有給使ってるけど何してるんやろ」みたいに見られてたと思う(笑)。そのときって仕事も家庭もすごくタイミング良くて、今だったら有給そんな使えないし、他の2人も家庭や仕事のことでそんなスタジオは入れないけど、その期間だけはけっこう動けて、めっちゃ根詰めて自分達と向き合って、本当に余計なこと考えずに自分達の中のものをどんどん出して行こう、みたいな作業ができた。

Q:それはスプリットがあったからなの?

亀:どうかな、バンドでそこまで話したりとかはしなかったけど…。他の2人はそれほどセンシティブじゃなかったし…。あのスプリットはやれて凄く良かった。Crypt cityと一緒にレコーディングやったことも本当に財産になってる。それがあるから今がある。

1stと違って2ndに関しては元ネタが全部自分達の曲なんだよね。自分達の中から出て来た色んなネタ、ボツ曲とかを参考にして、再構築していったというか。だからあの制作期間の数ヶ月に関しては、そういう意味でも自分達を見つめなおしてたみたいな感じが強い。完全に自分達の中身を出している感じがあるから、余計にそれを見た人が何を感じるかは全然わからない。みんな、自分が周りからどう見られてるかって案外分からないよね。そんな感じかも。



Q:いろんなバンドがいて、いろんなアプローチがありますけども。バンドとして自分達の立ち位置などを自覚してて、自分達がどこに行きたいのかっていう狙いが明確で視点が外に向いている人達もいて、そういう人達のアウトプットってわかりやすいんですよ。リスナーに伝えるための音楽だから。その先に伝えた後に何かがあるのかないのかは知らないですけど、俺の中ではそれが普通なこと。Detrytusはそういうのが無いから分かりにくくなってるんじゃないかなと思うけど。

亀:さっきの話の流れだと話がややこしくなるけど聴いてもらえるのは凄く嬉しいしライブもすごく見て欲しい。隠れてコソコソやりたいとかは一切ない。けどライブや音源に入れる音に関しては他人のことを考えない。自分達の中身を出して、それを聴いてもらおうっていう感じ。

Q:最後は聴いてもらおうなんですね。

亀:…すごく難しいんだよね。まるで人に知られたく無いのかと勘違いされがちなんだけど、そんなことなくて見てもらえたら凄く嬉しいし、聴いてもらえたらすごく嬉しいし、感想もらえたら凄く嬉しいんだけど….でも、誰かの為には一切やってないっていうそこの距離感が微妙なんだよね。まあ、俺たちだけじゃなくてみんな誰かの為にとかやってないと思うけどね。1stの時はもっと内向きだったんだけど、Sleepytime Trioが来て共演した時に転機だと思うことがあって。あのときに初めてギターのやつが「次のアルバムは色んな人に届けたい」って言い出して。一番そんなこと言わないタイプだったから心境の変化はあったんだろうね。1stのときは自分たちを広めることに躊躇していた部分があったと思うんだけど。で、このアルバムを録音したときは自分たちを見つめ直すことに集中してたわけでどれくらい広めたいとか考えてなかったわけだけど、録音が終わっていろいろなことを考えていったらパーソナルな作品だけどいろんな人に届けたいなっていう気持ちも芽生えたという…。でも音はねぇ、本当に…笑

Q:つまり今回は外にも向かってますよね。すごいポップな曲(Make Void Or Empty of Contents)も入っていたじゃないですか。あれは異色ですよね。

亀:あれは俺が家でネタを作った曲なんだよね。そのときはベルセバやCUREみたいな、軽い感じで暗くてスカッとしないような曲を作りたいなと思っていた時期で…ベルセバちょっとしか聞いてないから勝手なベルセバのイメージですけど…。それをやろうと思って持っていったら他のメンバーがよくわからないと言い出して、完成直前までいったけどボツになった。でもアルバム直前でまたやろうって引っ張り出してみんなで作り直して。

Q:あれ先行試聴で聴けるようにしてたから、次のアルバムで作風が変わるのかと思ってたけど。

亀:聴き易いのから出して行こうと思ったんで…。はっきり言ってあれを聴いてからアルバムを聴くとみんな「何だコレ?」ってなると思う。

Q:絶対なるでしょ!あれポップだけどアルバム中では逆に異色な感じで、まぁ面白かったですけどね。普通先行で出てたらそういう感じのアルバムと思いますけど、違ったね…。

亀:そのうち全部聴ける様にはするけど(現在はDetrytusのsound cloudで全曲公開されている)、今回のアルバムは色んな要素が入って来てるから一曲だけ聴かせると勘違いされやすいかなと思うので。どの曲も一貫した雰囲気はあるけれど、それぞれいろんな要素を持ってると思うから。あのメロディアスな曲も作ってる時のメンバーの雰囲気はいつも通りだったし、これでしょっ!って思ってたから、あーいうメロディアスなのも自分達では自然に出たという感じ。みんなそういうメロディアスなバンドも好きだし。

Q:アルバムの中でも、以前から曲のなかで音と音との隙間みたいなものを聴かせるみたいな、無い音を聴かせるイメージがあったんだけどそのイメージは更に強くなりましたよね。静かな曲が増えたのかな。いい意味で聴きながら寝れるというか。

亀:最近みんなで話していたのは、昔ほど速くてアッパーな曲を演奏するのがテンション的に難しくなったよねという話はした。もうちょっと円熟味を出す方向にいくというか。そういう意味で若いバンドと比べると初期衝動とかは無いかもしれないけどね。でも遅い曲を演奏するときの余裕みたいなものは昔より出て来て。その「間合い」を昔よりわかってきてる。バンドの最初の頃はそういうことが上手く行かなかったけど、今までの積み重ねがあるから遅い曲とか間合いの広い曲をやるときでもコツが掴めて来てそっちも気持ち良くなってくるからそういうのをやろうというか。感覚を掴み易くなってきた。自分達の歴史があるから出来る曲や演奏みたいなものがあって。

Q:歌詞とかも変わったんですか?

亀:変わったところもあったのかな。昔はもっと曖昧だったところもあるけど、今回はもう少し自分の心情みたいなものをわかりやすく落とし込んでいるところもあると思う。それはやっぱり複雑な表現をするのが難しくなっているのかもしれないね。彼の根幹にある部分を引き出さないと追いつかないというか、自分の言いたい事を出すしかなくなるというかそういうところなのかもしれない。1stの頃よりも自分の言いたいことが反映されてるなとは思う。ボーカルも焦点が定まってきたと思うし。ボーカル本人の中ではまだ色々あるでしょうけどね。幅が広がって良かったなとは思う。聴いてて楽しめるし。まあ、でもまだこれからいろいろ変わっていくでしょうし、それが楽しみ。一番変化を楽しめる部分だと思う。



Q:なるほどですね。ありがとうございます。「分かりにくい音楽性」ということで今日聞いていて色々わかりましたけど、まぁ俺にはまだわからないところも多いかな。

亀:そこが自分達でもわからないから『The Sence of Wonder』なところもある。

Q:もっとtwitterとかでもガンガン発信している人達いるじゃないですか。あそこまでやらないとやっぱり伝わらないんじゃないですか?Detrytusは全然発信してないイメージ。

亀:ほとんど俺しか発信してないのかな。俺でも割と気を使ってるから。あんまりメンバーの代弁者になるのも良くないと思って。

Q:言い換えると、「音楽の部分」がほとんどなんですよ。音楽以外の面が見えないからわかりにくいと感じるのかも。

亀:まぁ、それはあるけど・・・ある種それも良いかなと思っているところもあるけどね。音楽に関しては説明しすぎちゃうと魔法が解けちゃうような気もするし。けど、これが出来上がったときに初めて一曲目から最後までアルバムを頭から通して聞いて、こんなに個人的なアルバム作って世に出すのは大丈夫かなというのは思った。これが誰かの人生に入り込むことってあるのかな、と少し心配になったもん。そういう意味ではすこし説明したほうがいいのかもしれないし、このインタビューがそうなればいいと思うんだけど…。

Q:心配してる割にはLPも作っちゃうけど…笑

亀:それくらいに気概のあるものができたから…ここで作らなくて数年後に作っておけば良かったなってなるのも嫌だから。お金はいつか返ってくるものだとして、ここは一発ぶち込んでおこうという。



Q:Detrytusは真面目ですよね。音に対して明確な答えを求めてるというか。

亀:良くも悪くも。明確なものはある。それは言葉と言葉の隙間にあるというか、それを引きづり出してやってるから。

Q:それを解明できたら哲学になりそうですね。

亀:実体のないものを形にしたいと思ってやってるから。でも高尚なものにもしたくないし。

Q:Detrytusの音楽はジャンルとしては何になるんでしょうね。ポストロック?

亀:それはない。メンバー誰もポストロック聞かないし。じゃあ何がポストロックなのかって話になるけど…。自分達は普通のロックバンドじゃないかな。ハードコアでもないもんなぁ。本当にハードコアを感じるバンドを見てると自分たちはハードコアには入れてもらえないと思うし名乗れない。

あと、自分達の居場所やホームをしっかり作れていないのが悔しい。それは自分達の実力不足とか求心力が不足してるんだろうけど。この前QuizkidとBedとZirconiumが一緒に3マンやってたときに素晴らしいなと思って。言葉にはできないけどなぜか同じ匂いを感じるバンド達が集まって、外からみても内からみても同時代の良いライバルみたいな、そういうシーンみたいなものを作れているのが素晴らしいと思ったし、正直言うと羨ましかった。内側から見れば繋がってるのが見えるってのはけっこうあるけど、外から見てもそれが伝わるってのはそうとう太くてしっかりしたシーンだと思う。自分たちにもシンパシーを感じるバンドはいるし、何か形にしたくて数年前はスタジオライブとか定期的にやってたりしたけど、なんか結局は今も一人でいるみたいなことがよくあるからね。

Q:こういうシーンが日本にない?知らないだけなのかどうかはわからないですけど。

亀:別に珍しいバンドになりたい気持ちは無い。昔は「だれもやらないことをやる!」みたいな野心みたいなものがあったんですけど、今はそういう感じでもない。だけど本当に好きなことを突き詰めてやってみようとなると結果的に何かから離れていっちゃうことも多くて、それが良かったと思える瞬間もあるけど寂しい瞬間もあるよね。レーベルとかも自分達でやると好き勝手できるけど、一緒に盛り上がって行く仲間とかも欲しいと思う…。やっぱり応援してくれる人がいるのは心強いよね。仲間が全くいないとは思っていないけど、音楽面だけで言うとやっぱそういう風になりがちだよね。

Q:そういう人たちってもう自分達がゲテモノだということも自覚していろんなところに行くんじゃないですか?Vampilliaとかもそうだと思うし。同じ様なことやってる人いないからハードコアとやったり外人呼んだりアイドルともやったり…自分達で全部やっていってるイメージ。まぁそれもDetrytusなのかも。共感を求めてるわけじゃないと思いますし。いや、すごく奥のほうで共感とかじゃない何かに辿りつくかもしれない。

亀:絶対自分達をガッカリさせない作品を作る。それ以外のところは、もう気にしないほうが健全なのかなってたまに思う。

Q:ある意味振り切ってるんですね。

亀:良い意味で他人を信用しないというか。他人の意見ってうつろいやすいものじゃないですか。そんなもの気にしていたら音楽なんて出来ないし、ものすごくストレートなものって出来ないから。自分達に向き合ってやるしか無いないなってなっちゃうよね、結局は。



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※ 1: いわずと知れたアメリカDC発のインディペンデント・レーベル。DIY思想や反商業主義の価値観を提示し、80年代のUSハードコアシーンはもちろんその後のポスト・ハードコアシーンにも大きな功績を残している。
※ 2: 80年代のUSオルタナシーンを支えた最重要レーベル。
※ 3: THE SUNSETBOULEVARD(http://thesunsetboulevard.com/
※ 4: Fugaziのベーシスト(http://sound.jp/hardlistening/interviews/joelally_1.html
※ 5: asthenia(https://astheniatokyo.wordpress.com/
※ 6: スーパーレジェンド。奇跡のリユニオンを果たし、2014年に来日したのも記憶に新しい。(http://www.balloons.jp/summer-meeting/
※ 7: ex.Faraquet. メンバー在籍。 2005年にCatuneの招聘により来日が実現。(http://www.e-vol.co.jp/hardlistening/interviews/medications_1.html
※ 8: segwei(http://members3.jcom.home.ne.jp/4311176101/segwei/
※ 9: 90年代Dischordを象徴するバンドの1つ。(https://www.youtube.com/watch?v=gPtEii8FL0Y
※ 10: Bright and dark side(https://www.youtube.com/watch?v=WV4lz9uaXj4
※ 11: HelmetのPage Hamiltonは元々ジャズギターを専攻している。
※ 12: P-FUNK、ジョージクリントン、Parliament、Funkadelicについてはwilipedia参照のこと。(http://ja.wikipedia.org/wiki/P%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%82%AF
※ 13: Sunday Bloody Sunday(https://sundaybloodysunday1.bandcamp.com/

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