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再結成を果たして以降、American FootballはEMO界の現人神のようになっているかもしれない。ジャケットから察するに、前作アルバム以降の世界観を踏襲しているであろう美しいサウンドの中に彼らのEMOを表現する2022年作。99年と根本的に違うのは、彼らは自分たちのEMOにより意識的になっていることであろう。10インチのレコードの両面に刻まれるのは、それぞれのEMOである。

「Rare Symmetry」、稀有な対称性とでも直訳できるこの楽曲で表現されるのは現代社会の課題となっている鬱や病みといったテーマがあり、体、心、を同じように(これが対称性なんだと思う)病んでいるその生きづらさ的な状況を包み込むような美しい楽曲となっている。慰めになるのかどうかは知らないが、その生きづらさこそが芸術なのだというメッセージ性はある程度あると思われるが、そのテーマ性を楽曲面でも表すかのように同じギターのフレーズがずっと反復される。楽曲の展開の区切りをあえて曖昧にすることで、歌詞世界とリンクした表現になっていることも上手い。この辺り、彼らは自分達のEMO表現に意識的であることをうかがわせる。これは美しさだけを追求した表現ではあり得ない。

B面「Fade Into You」はMazzy Starの1993年発表曲のカバーもテーマ性としてはA面と地続き。楽曲の構造としてもシンプルな繰り返しの中で、個人個人の心の中へ溶け込んでいくための楽曲の長さがある。それは一瞬ではなくゆっくりと行われていくもの。A/B面とも個人の心に寄り添うべきEMO、という彼らの姿勢が反映されたものであると解釈できると思う。
印象的な最後のフレーズ、「I think it’s strange you never knew / あなたが知らないのはおかしいと思うよ」というフレーズは反語であり、「あなたは知っているはずだ」という意味に違いない。何を?あなたの中に価値があることを。

もはやクソオヤジとなった90年代ヒーロー達の多くは去ったが生き残る彼らは今すべき表現をわかっている。EMOは音楽ジャンルに非ず。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。奢れる人も久からず、ただ春の夜の夢のごとし。

tracklist:
1. Rare Symmetry 06:02
2. Fade Into You 07:02