喫煙室から始まる未来、日本国内で良きインディロックの一翼を担っていた(と勝手に書いておく)Klan Aileenが何故かZamboaへとバンド名を改名しリリースする2024年アルバム。
なぜ名前を変える必要があったのか。それはまだわからないが、なんとなくちゃんと聴いた方が良さそうだ!という意識にさせてくれる音が最初から聴こえてくるのが嬉しい。
彼らのnoteの方の記事に色々と書いてあるのだが、それは聴いてから読んだほうがいいかもしれない。僕が思うに、まずは文脈抜きに、そして3LAリスナー的には僕含めそんなにKlan Aileenを深く聴いてきたわけじゃないと思うから、普通に音にぶつかってみればいいんだと思いますね。単純に音自体がメッセージであることが重要であるというのは常々言っていることではありますが、彼らはそれを体現しているバンドであると思います。(noteで大量にテキストはあるけど)
Skramzのそれとも、SPOILMANのような不穏なロックのそれともまた異なる形で、Zamboaの音には二面性が感じられる。静けさの中に暴力性のある音、粗暴だが洗練されたタッチの演奏、みたいな矛盾するような要素が見事に同居したバランスはちょっと凄すぎるかもしれないが、わざわざ言語化しなくてもいいのかもしれない。とにかく2024年はもう終わりが見えてきているけれどこのアルバムは聴いたほうがいい。
// release info
前作『Milk』から6年ぶりの、そしてKlan AileenからZamboaへと改名後初のアルバム『未来』
「都会」を離れ、「郊外」とも違う、明確に「田園」的な音楽を作ることをテーマに、自然の静けさや、長閑さ、何かが「息をひそめている」ような「予感」そのものを音楽に落とし込むことを試みた、彼らのディスコグラフィーの中でも最も凶暴なアルバムが誕生した。
2019年以降に行った全てのリハーサルに録音機材を持ち込み、サウンドチェックを含めた「全てを録音する」という途方もない制作方法をとったこの作品は、いわゆる「本番」的な気負いによって音楽から失われていた「リラックスした演奏のタッチ」「大胆さ」「無計画さ」を、テンポの変化や揺れ、演奏ミスやアクシデント、環境ノイズ等のさまざまな形で捉え、それをアナログテープとミキシングコンソールを使ってミックスすることにより、原始的な「記録」としての迫力と緊張感を携えている。グリッドや、強弱の連続性について考えることを忘れてしまったDTMミュージックは当然のこと、昨今のロックミュージックで主流になりつつあるエミュレートされたアナログ感とも一線を画すような生々しい音像は聴き手に否応なく演奏者の身体を幻視させる。
このバンドの個性の一つである、1コードの、下方向への強い磁力を持った地縛的なギターは影を潜め、代わりにメロディックマイナーを基調とした(彼らにしては)多彩なコード展開の中に、かつての姿を表しながら不和と調和を往き来する。澁谷亮の透明度の高い歌声による幽暗なメロディと、竹山隆大の、日本民謡とバックビートの中間にある、ロックともジャズともつかない極めて個性的なビートが合わさることによって「精神のダンスミュージック」が立ち上がってくる。
量子力学の二重スリット実験から着想を得たというジャケットデザインは、青海波や音の反響を思わせる模様の中央に、消失点に見立てられる形で新たなバンド名である「ザボン」の実のシルエットが配置されている。それは、光り輝く一つの点=「正解」を視界に捉えたまま、無数の可能性が、間違いにも正解にもならず、可能性のまま存在している瞬間を表象している。
今作の大きな特徴である「歌」と「言葉」はサウンドスケープの最前面に堂々と配置され、それは過去作の特徴でもあった「奥まったボーカル」に対して真逆のアプローチである。
風景のように
深く潜る感覚と空へと霧散するような相反する感覚を呼びながら、我々を過去へと押し流し、そして未来への引力に引き寄せていく。
tracklist
1. 喫煙室(Kitsuenshitsu) 04:41
2. メトロポリス(Metropolis) 04:52
3. 朶雲(Daun) 04:58
4. ムーンライト(Moonlight) 03:02
5. 大乱闘(Dairantou) 02:16
6. いしてっ(Issite!) 03:29
7. ひばりの朝(Hibari No Asa) 05:20
8. この世でもあの世でも(Konoyo Demo Anoyo Demo) 09:42
9. 旋回(Senkai) 03:18