特集 ネオクラストとは何だったのか

ネオクラストのムーブメントにより多くのバンドが発生し消えていったが、音楽的なピークはむしろこれからかもしれない。以前、3LAサイトのコラムでも掲載したネオクラスト考察を交えながら、ここではムーブメントを再検証しつつ、現在のシーンについても触れていきます。

はじめに
「ポストハードコア」、「ポストメタル」と同じように曖昧な表現だが「ネオクラスト」というサブジャンルとはどういった音楽のことをいうのか?新しいサブジャンルを説明するときにどう説明すれば適切なのかわからずついつい適当&曖昧な答えをしてしまうことが多い。自分がネオクラストを紹介するときは大抵、激情要素に限らず従来のクラストハードコアにメロディック要素だったりロックンロールの要素だったりプログレッシブな要素だったりとにかく異なるジャンル、異なる方法論を自分たちのクラストというスタイルに 持ち込んだ新しいハードコアの一種だということにして説明している。なぜなら激情要素の強いバンドもいれば、ほぼブラックメタルになってるバンドもいるしその形態は実に多様だからだ。ある程度音楽知識を共有できている者同士では影響を与えているバンド(例えばHis Hero Is GoneやTragedy, Remains Of The Dayなど)を引き合いに出せば大御所の雰囲気はなんとなく伝わるけれども、それだけでは不十分だ。そういった説明では各バンドの音楽性の特徴を説明することはできてもシーン全体の説明としては誤解を与えかねないし、 大御所バンドの活動しているイギリス、アメリカ、スペイン以外の国でも同時多発的に盛り上がりつつあり、地域性は無視できない。2010年以降、Alpinist、Masakariら若手バンドの活躍により注目は集まっているもののやはり「ネオクラストって何?」っていう疑問はよく聞く。それについては自分のできる限りの知識を提供したいし、Alpinistだけで終わってしまうのはもったいない。というわけで今回のネオクラスト考察その2はネオクラストを語る上で外せない重要地域、バンドについてまとめてみました。

Ekkaiaから始まるスパニッシュネオクラスト


ekkaia

「ネオクラスト」については冒頭で述べたように様々な異ジャンルの音楽性を取り込んだバンドということにしているが やっぱりダークな激情要素を持ち込んだEkkaiaはシーンの中でも別格の扱いを受けている。2002年頃スペインで結成されたこのバンドは最初のデモを発表した後に改名、IcosからEkkaiaと名乗った。メンバーの元々の活動を見るにおそらく音楽性のルーツとなっているのはデスメタルやグラインドコアでEkkaia以前のメンバーの経歴からも初期からスタイルを確立していたのではないようだが暴力的なサウンドの中にもメロディック要素、ダークかつアトモスフェリックな要素を持ち込み次第にオリジナリティを確立した。同じようなスタイルにたどり着いたバンドは同時代でもいたとは思うが、Ekkaiaほどの音楽性まで昇華できたバンドはいなかったように思う。エモーティブな新しいスタイルはシーンに衝撃を与え、従来のハードコアと区別する為に「Emo-Crust」または「Neo-Crust」と呼ばれるようになった。当時のインタビューを読んだが、Ekkaia本人たちは呼ばれているジャンル名についてはなんと呼ばれようとも構わないという感じだったようだ。サポートとしては、フランスの名門Stonehengeの力が大きかったと思われる。ちなみにシーン黎明期に活動したフランス同レーベルのバンド達,Anomie,Daymareのスタイルも少なからず影響を与えているはず。
Ekkaiaの初期作品の特徴、後期作品の特徴は結構違っていて、人によって好き嫌いは分かれるところでは有ると思うが従来のクラストに新たな要素を持ち込もうとする実験精神は変わっておらずいずれにせよ多くのリスナーから高い評価を得ている。彼らが影響を受けているのはTragedyやHis Hero Is Goneといったバンドのエモーティブな要素、ダークなメロディックハードコアにバイオリンを持ち込んだ Remains Of The Day、ブラックメタル並みに暗黒要素濃厚なCtharsisといったバンドでこれらはその他多くのネオクラストバンドに共通するところでもある。ちなみにEkkaiaの音源はほとんど入手困難な状況になっており、以前stonehengeとやりとりしていた時が再発プロジェクトもあるとのことだったが今のところの様子では進行していないようだ。万が一レコード屋で見つけた場合、迷うことなくゲットすべし。

Ekkaiaのメンバーはバンドの活動と平行したプロジェクトや解散後にメンバーにより結成された別バンドでもクラストハードコアの進化系を模索しておりCop On Fire, Leadershit, Asedioをはじめ数えきれないほどのバンド、プロジェクトを動かしており今でのシーンに大きく貢献している。とにかくこれでもかというくらいにアイデアを出しまくってくれる創作意欲は尊敬に値するし、シーンを牽引するバンドならではのカリスマ性がある。
また、Ictus,Madame Germenといったバンドもスパニッシュ系を代表するバンドとしてEkkaiaに負けず劣らずの支持を受けていて こちらもスペインのネオクラストを語る上で絶対に外すことはできない。スペインのハードコアは血の沸騰するような熱いエモーティブを感じるバンドが多く、ネオクラストにも漏れなくストリート魂むき出しの熱い血が注入されていて否応無しに本能に訴えかける情熱的な音楽性が特徴的。拳を握らずにいられない。Ictusは大作志向の目立つドラマティックな楽曲が多く、Madame Germenはダークなリフとメロディが印象的である意味叙情ブラックにも通じるところがある。しかしながら例によってEkkaiaと同様、Ictus,Madame Germenの音源も国内流通が悪く入手困難な状況が続いている。作品自体はそれほど昔のリリースというわけでもないので海外ディストロ等では目にする機会が多い。Ekkaiaと同時期にシーンを切り開いた両バンドだけに確立されたオリジナリティを持ちシーンからの支持も熱いしスペイン系はEkkaia,Ictus,Madame Germenが三強なのは間違いないと思う。

Complete Discography / Ictus (Double CD)
Complete Discography / Ictus (Double CD)
3LAリリースの代表作でもあり、スパニッシュネオクラストEkkaiaに並んで最重要バンドIctusの完全版。ある意味Ekkaiaはハードコア的に突き詰めているがIctusは叙情的でサウンドプロダクションも自分たちのスタジオでしっかりした録音を残しており音も良い。クラストだけでなく、激情ハードコアやメロディックハードコア好き、メロディックデスメタル好きにもオススメできるまさに情熱的なスペインの熱いメロディが日本人の感覚にも非常に共鳴するものだと思います。
Dicography 2012-2015 / Khmer
Dicography 2012-2015 / Khmer
Ictusから続くスパニッシュネオクラストの歴史を注いでいるのがKhmerだ。3LAでも活動初期からサポートし、2016年には遂に来日も果たした。El Egoなどでも活動していたVo.マリオとIctusのGt.イヴァンのコンビネーションがこのバンドの肝だ。ブラッケンド的なアプローチはありつつも、イヴァンのギターから生み出されるギターリフのクラシカルな響きは正にIctusのエッセンス!現状スパニッシュ系でネオクラストの流れを今でも汲んでいるのはKhmerやTarsius Tarsierといったバンドたちだ。

また、この3バンドのメンバーが在籍している派生バンドが多いのも特徴的だ。その派生バンドの一つBlack PandaはEkkaia,Madame Germenらのメンバーが参加しているが、叙情性を廃し、ロックンロールの持つ原始性を売りにした。バンドはMotorheadの名に由来するMotor-Crustと呼ばれこれもネオクラストのひとつと言える。Cop On FireもEkkaia,Madame Germenのメンバーに加えてState Of Fearのメンバーも在籍する等多国籍かつジャンルを超えたメンツで結成されたバンドだ。人脈、音楽性の多彩さもスパニッシュネオクラストの飽きさせない魅力だろう。各バンド達もそれぞれ異なる方向性を模索しておりそういったバンド数の多さや人脈の積極的な交流もありシーンは非常に活発だ。サブジャンル自体が「混ぜ物」だし、それ故に新しい化学反応が起こる可能性があるんだと思う。日本では音源の流通が少なく、彼らの音源を手に入れるのはなかなか難しいけどどのバンドも素晴らしい音源ばかりだ。そして同じスペイン語圏内としてメキシコを中心として南米でもシーンが育っていることも付け加えたい。基本的には言葉が同じだと音楽性の印象も似たようなものになるので、南米といえどスパニッシュ系として捉えて問題ないと思う。Agonie,National Disaster,Alone In Ther Clowd, Yakuza HorrorなどRawで攻撃的なハードコアを貴重としながらも楽曲の中に叙情性やドラマ性を盛り込みスパニッシュ系と欧州系のある意味で良いところ取りのようなバンドが多い。後で触れるドイツのAlpinistなどもそうだが後発となった新世代バンドにとっては、フロンティア達のおかげで試行錯誤でスタイルを模索する必要が少なかったため上の世代のバンド達の音楽性を良いところ取りできるというメリットはある。初期からある程度完成度の高いバンドが生まれやすい土壌があるのはいいことなのかもしれないが、シーンの音楽性が更に前進させる為には新しいアイデア、サウンドが必要不可欠でその為には試行錯誤が必要で今後前述のバンド達がさらに自分たちの地域故の音楽性を追求するようになるだろう。なんにせよメキシコシーンは今後更に面白くなるのは間違いない。

and it begins... / National Disasters (CD)
and it begins... / National Disasters (CD)
メキシコのネオクラスト、あまりにも悲しく美しいアコースティックナンバーで幕をあける7曲入り44分の2008年リリース音源。オーケストラの演奏のようにドラマティックな展開でかつREMAINS OF THE DAYのようにストリングス陣も入ってきてまるでコンセプトアルバムのよう。大作志向だけれど音質はめちゃくちゃ良いわけではなく結構荒々しい演奏と相まってRAWな印象を受ける。が、それが良い。
Fall Of Efrafa 芸術性を追求し続ける唯一無二のUKネオクラストと欧州シーンへの影響


Fall Of Efrafa

アンダーグラウンドシーンでカリスマ的な支持を受けるFall Of Efrafaもネオクラストシーンを語る上で最重要バンドの一つだ。イギリスのバンドだが、国内でどれほどの支持があったのかは今ではわからないがドイツのAAやアメリカのHalo Of Fliesからのリリースを考えるにおそらくは国外での支持のほうが大きかったのだろう。特に一本の物語を時間をかけて表現していく大作志向な作りや芸術性を追求する姿勢は欧州の若手バンドに大きな影響を与えている。初期音源ではスパニッシュ系にも匹敵する熱いハードコアをかましているが、彼らの支持を決定づけたのは芸術的とすら言える表現力の高さだ。Tragedy,His Hero Is Goneからの影響という部分も特に重厚な音作りに現れておりスパニッシュ系とは影響受けているバンドは同じでも取り込んでいった部分は違う。Envyのように叙情的なサウンドは非常に日本人好みだと思う。しかしながら特にEkkaiaらと決定的に異なるのは音楽性以上に制作環境、思想面が大きい。スパニッシュ系は基本的に労働者階級のストリートの音楽という感じだがFOEは芸術性を重視したコンセプチュアルな作りは荘厳な雰囲気があり気品溢れるハードコアサウンドと言える。ディストピア感も薄いし、直接的にリアルな社会問題を取り扱うというわけでもない。音楽性でシーンと繋がっているという認識であれば、徐々にクラストという音楽性から離れていったのも納得できる。バンドの後期では音楽性、サウンドともに進化を続けた結果ネオクラストすらも超越し深淵かつ重厚なポストメタル的なアプローチになっておりそれは今日のLight BearerやMomentumらのバンドへと受け継がれている。

Silver Tongue / Light Bearer (2LP)
Silver Tongue / Light Bearer (2LP)
前作LapsusでFall Of Efrafaの後期で見せていた世界観を見事なまでに昇華し各地から大絶賛を得たが、長編ストーリーの第2章というべき本作(残念ながら次作を作れずに解散してしまった)はより多幸感を増した音楽性となった。サウンド、アートワーク、歌詞を通して表現される世界は荘厳な雰囲気と張りつめた緊張感の織りなす圧倒的な完成度を誇っている。もはやネオクラストでもなんでもないのがが、これもまた進化のひとつと言えるだろう。

Fall Of efrafaについては音源の多くは廃盤となったが近年LPが再発されたり、メンバーの新バンドの動きも活発になってきているのは嬉しい。Fall Of Efrafaの活動以前にもスイスのCwillなど弦楽器を入れ叙情性を持つバンドも存在していたが商業ベースでも一定の成功を収めたという意味でも彼らの功績はやはり大きいのだと思う。そしてFall Of Efrafaの子供達とでもいうべき新世代ネオクラストとして欧州でも特に盛り上がりを見せているのがドイツだ。Fall Of Efrafaの活動していた時期から各レーベルも音源リリースをしていたし、シーンとしては存在していたが急激な盛り上がりを見せるようになったのはやはりシーンを代表するバンドとしてAlpinistやFinisterre,Downfall Of Gaiaなどが育ってきたのが大きいだろう。彼らはEkkaia,Fall Of Efrafaからの影響を公言しつつも自国のTrainwreckなどカオティックハードコア勢からも影響を受けた音楽性が特徴的。特にAlpinistの叙情的でありメロディックに疾走する若々しいサウンドは激情ハードコアシーンの盛り上がりも背中を押し、クラストに限らず各方面から熱い支持を獲得している。その他スウェーデンにはShades Of Grey,ポーランドにはPanasea、Drip Of Lies、Mind Pollution、フランスのGeranium、など各地から続々とバンドが輩出されておりシーンは盛り上がりを見せており音源の流通が悪くなかなか手に入らないが、AxidanceやGattacaといったロシアや東欧のバンド達も独特のサウンドを育てていることも付け加えておく。

Protestant/Halo Of Flies、欧州とは異なるスタイルで発展を遂げるUSネオクラスト



シーンの話題となったAlpinist/Masakariのスプリットをリリースし、これまでにも多くのネオクラスト系音源をリリースしてきたのが Halo Of FliesのCoryであり彼が率いているProtestantもUSシーンにおいては重要な役割を担っている。基本的な音楽的ルーツが欧州勢とは違うのでEkkaia,Fall Of Efrafa,Alpinistのようなバンドとは違った進化を見せているのは興味深い。欧州勢ほどの叙情的なメロディックさは無く、ダークでメタリックなリフ主体の楽曲となっているのが特徴。His Hero Is Goneからの影響が大きいとMasakariメンバーが公言しているようにシーンの精神面もアンダーグランドに徹しているのでFall Of Efrafaのように商業ベースで成功したバンドというのがまだ存在していない。そういう意味でも欧州のバンドを共同リリースで国内に供給するレーベルの重要性、ProtestantやMasakariらの存在は大きく世界的に認められつつ有るAlpinistと自国のネオクラスト代表とでもいうべきMasakariとのスプリットをドイツAAとの共同でリリースするというアクションは彼らの音楽を広くアピールするという重要な意味を持っていた。未だ同系バンド数が多くなく活発とはいえない地域だがシーンが成熟していない分今後の可能性は未知数。音楽性や人種も混沌としている分新しいスタイルが生まれる下地はできていると思う。

日本、アジアのネオクラスト
2010年以降は日本やアジア、その他でも大国ではない国の小さなシーンでネオクラストバンドは生まれている。日本ではようやく自らネオクラストを名乗った姫路のsekienが各地へのライブ遠征によりその名を知らしめていった。東南アジアでもPazahoraを始め、マレーシア、シンガポール、インドネシアでも発生してきている。どのバンドも熱気があり、欧米バンドたちへの憧れを抱きつつもオリジナリティを追求している。アジアのシーンはむしろこれからだろう。激情ハードコア同様、日本、アジアのバンドたちは勤勉にその道を追求するため時間をかけて新しい表現を生み出していくことが多い。

st / sekien (CD)
st / sekien (CD)
海外を中心としたネオクラストという新たなシーンの動きと大いに共鳴しているバンドが日本国内で同時期に生まれ、活躍の場を次々と開拓しているという意味でもsekienというバンドは非常に稀な存在である。日本のバンドとして新しい要素を取り入れつつも、現代的で重厚なサウンドとは全く正反対に向かうRAWでプリミティブ、つまり非常に生々しい音質でレコーディングされた音の「汚さ」には彼らのパンクへの愛、美学、主張が詰まっている。
最後に
シーンは何度も盛り上がったり落ち着いたりを繰り返して成長するもので今きているネオクラストの波も初めてのものではなく過去数度きては引いていった波の延長線上にあるということを忘れてはいけないと思います。Alpinistも過去国内のAcclaim Collective(Respect!)がリリースに関わっていたし、 これまでに多くのバンドやレーベルが生まれては消えていってる。これがただのサブジャンルとして終わるのか、一つのシーンとして確立できるのかどうかは各バンドの音楽性だけでなくそれをサポートできる環境があるのかどうかも重要になってくるし、未だスタイルが広く認知されていないサブジャンルだからこそ大局的にハードコアの歴史の中に[文脈]を紐付け価値を見いだしていくのがレコ屋の仕事なんじゃないかなと思います。そのためにも音源についても主観的な感想だけじゃ不十分で、できるだけ多くの情報を集め体系的にまとめあげていかなくてはならない。思想面ももちろん重要で各バンドかなりシリアスなテーマを扱っているのでこれについては次回以降で触れたいと思います。とにかく、ネオクラストに関しては参考文献もない今だからこそこういうことを書くべきなんじゃないかと ずっと考えていたので今回まとめてみたわけです。今回は大きく分けてスパニッシュ系、UK欧州系、US系に分類してしまいましたがまだまだシーンを語るには不十分で、やっぱりオーストラリアや北欧、ロシア含む東欧諸国についても書いて整理してみたいし音楽性の源流となったバンド達も掘り下げなければいけないとおもっています。乱雑な文章となってしまいましたがより音楽を楽しむための足しにしていだければと思います。

ネオクラストの3LA取り扱いリストはこちら!!
【3LA ネオクラスト音源一覧】

>>> コラム一覧ページに戻る
Interview with Jonas (This Gift Is A Curse) by Kreativ Mag
メールアドレス
パスワード
パスワードを忘れた方はこちら

SEARCH

商品カテゴリから選ぶ
レーベルから選ぶ
キーワードを入力

Twitter

アナログ盤をお買い上げの際はmp3ダウンロードorCDR化を無料サービス