TJLA通信: Interview with Khmer #3 Mario <生活思想編> (2018/09/08)
5回連続のKhmerインタビュー第三弾、Marioへのインタビュー(2016年)は、彼のキャリア、生活といったテーマの質問を通して彼の思想に迫っていく内容で、ある意味音楽的なインタビューよりも彼の心の部分に攻める内容になっている。文末にはインタビュアーを担当したllasushiの2016年当時のあとがきも掲載しています。
Interview with Mario <生活思想編> by llasushi
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※インタビューにおけるカッコ内の小文字はllasushiによる補足または註釈となります。
Q: 初めての演奏体験からEl Egoやkhmerにいたるまでの個人的な音楽活動の来歴を。
Mario: 10代半ばに友人5人とで、その内の誰かの家に集まってはカバーをよく演ってたのが最初の演奏体験。しばらくしてから地元の他のやつともっと真剣にやるバンドを始めて、人前で演奏したのもその頃だった。今思えば控え目に言っても酷い代物だったし勿論すぐに活動しなくなった。けど組んだ甲斐はあったんだ。というのもそのバンドでの演奏のおかげで俺はボーカリストとして周りから認識されるようになり同じ地元で当時結成されたばかりのバンドに加入を誘われたんだ。
そのバンドはAnother Kind Of Death(以下AKOD)といって2000年のことだった。当時AKODはSolid StateやFerretなどの影響に始まってそのスタイルは当時のスペインではまだ珍しくてさ。初期のConvergeやDillinger Escape Plan、あとはToday Is The DayやZaoあたりを意識したサウンドだった。すぐに名前は広まったよ。毎週ライブをするようになったしアメリカのレーベルの幾つかからもオファーが来た。それにTerrorizerに評されたりもしたよ。けれどもそんな具合にうまく進んで「さあ、これから!」ってときにドラマーに深刻な問題が起きてしまった。結果的に彼はバンドを辞めざるを得なくなってそれからは数ヶ月ごとに違うドラマーを入れては替えてを繰り返してはみたものの結局初代のやつほどに良いリズムは得られなかった。そして2010年にバンドは解散したんだ。
それからSadman StudiosをやりながらEl Egoでもギターを弾いてたCarlos Santosが俺とIvánを引き合わせてくれて一緒に演らないかと声もかけてくれた。CarlosはAKOD時代にレコーディングしたときに知り合っていたんだけど、当時El Egoはボーカルがバンドを抜けた後で、彼は俺が後釜に適任と踏んでたらしい。結局El Egoは俺が加入してから1年ちょっとだけ続いたかな。Carlosが段々他のことで忙しくなってしまってそれに伴って彼のバンドへのモチベーションが下がってしまったからなんだけど。それで残った面々でバンド名を変えて心機一転、再出発しようぜ!という流れになった。Carlosの抜けた穴をAKOD時代からの古い知り合いであるVictor Teixeiraに埋めてもらい、ベーシストにはIvánがDesert Iconsで一緒に演ってたMarcos Sánchezを迎えた。それがkhmer結成のいきさつさ。
今挙げてきたバンド以外に幾つも特にこれといったところのない地元のパンクやサイコビリー系のバンドでボーカルをつとめてきたよ。デスメタル系のBecome WrathていうバンドではレコーディングもしたしDellamorte Dellamore、The Marriage、Mort Subiteといった他の地元のバンドともコラボレーションしたね。
Q: 表現行為に持てる時間の全てを捧げられていることに羨ましさを覚えてしまいますが、その充実の中でもやはり息抜きを必要とすることはありますか?あるとしたらどのようなことをしているのでしょうか?
Mario: 言われてみれば確かに使える時間の限りを創作にあてているね。こればかりはもう習慣といっていいくらい染み付いてしまっているものだし、今更他のことにあてようなんて考えもしないな。とはいってもたまには息抜きしてるよ。友達とビールを飲む。会話を楽しむ。息子と遊ぶ。散歩する。取るに足らないことかもしれないけど大切なことだよ。
Q: 結婚し遂には父親にもなったあなたですが、家族を新たに持ったことで新たに表現できるようになったことと同時に表現できなくなったことはありますか?
Mario: 息子が生まれたことはありがたいことなんだけど・・・実は一年以上前に彼の母親にあたる女性と俺はこれ以上関係を続けないことを決めたんだ(明確に「離婚した」とは回答してなかったのであえて直訳してあります)。彼女との関係断絶にまつわる一連の経験についてはkhmerでの幾つかの歌詞に散見できると思う。その時に得てしまった喪失感や諦め、それらをきっかけとした個人的な揉め事は俺の歌の多くのインスピレーションになってくれはしたけどね。
ひとりの人間において始まりであったはずの愛がどうやって呪いへと変わってしまったか、それによって口にする言葉が忌々しさを帯びるようになってしまったり、身近なものがことごとく耐え難い傷のように感じてしまったり。挙句の果てには休みなく諍う以外の生き方は存在しないかのように感じてしまったり・・・“灼賛歌”(2016年2月23日に3LAより国内盤リリースとなったスプリットの収録曲)はまさにそういった経験が反映された一つの例だよ。
表現できなくなったことは特にない。どれだけ困難なことでも書くことでしか俺は乗り越えられないから。もっともそういった逡巡を渡りきれたら書くことは無くなるんだろうけどね。
Q: スペインは1975年まで軍事独裁の政権下にありました。確かあなたは軍事政権が終わってから10年くらいの間に生まれた世代だったと思います。つまりそれを経験はしていないけれど体験している世代からも遠くはない。そのようなあなたにとっては「あの年」を通過しているかいないかは裂け目に映るものでしょうか?
Mario: 確かに「1975年以前/以後」といったものはある。けれども俺からみるとそれ以上に今の若い世代との間に溝を感じることの方が多いかな。俺の両親にあたる世代の人達は俺からすればかなり偏ったものの見方を続けているよ。例えば政治についてなんかだとそれこそ未だに“アカ”か“ナショナリスト”かでしか分類できていない。でもこのふたつはスペイン内戦(1936~1939 この内戦の結果先の“ナショナリスト”側である軍事政権が誕生した)当時のものなんだぜ。40年にも渡って被った圧制とそれによる幾つもの惨劇。誰もそのツケを払おうとはしないしそれどころか臭いものには蓋同然に無かったことにされてばかりの始末さ。
今年もマドリッドじゃフランキスト(独裁時代の将軍フランコを尊ぶ主義者のこと)が街を占拠して大騒ぎしてた。それに結局今も政治を動かす仕組みは大差ないんだ。当時と似たような対立の仕方でやり合ってばかり。お互いをけなすか揚げ足取りに精を出すか、議論にしたってマニュアルどおりな言葉が行き交うだけ。まるでなっちゃない。まったく世界はもうあからさまに商業的な動機をもってこれまでとは違う方向に進んでしまっているというのにさ。俺の世代はこの国で民主主義が実現されるのと同じ時代に生まれた世代で、成長する過程において前の世代のやり方とか考え方は特に影響を受けてこなかった。
けどもっと若い世代は、俺達と俺達以前の間にあるものなんかよりももっと隔たりを持っているような感じがする。彼らはSNSをはじめとするあらゆるネットの世界に自分を売り込むことに忙しくて、それは俺には到底理解できない沙汰だ。(“所謂”民主主義が始まった時期が日本では第二次大戦後であることに対しスペインでは独裁後であること。この約30年の隔たりがゆえに民主主義の位置づけが日本のそれとは異なることを念頭に置いて考える必要は大いにあると思われる)
Q: ピレネー山脈を国土の中央に据わらせていることで北部と南部には明らかな文化の違いがありますし、それ以外にもイスラム圏、アフリカ圏、インド圏、、、と様々な文化文明の交点としてスペインを見ることも可能かと思います。例えば北西部のガリシア州、Ictus発祥の地でもあり、フランシス・フランコ生誕の州でもありますが、はケルトを起源とするものが多いとききます。スペイン国内のアンダーグラウンドミュージックの世界においてそのような文化的多様性を認めることはありますか?もしあるとしたらどのようなところに現れていますか?
Mario: かなり複雑な質問だね。イベリア半島全体(現在におけるフランスの一部、スペイン、ポルトガルを含む一帯)がアフリカやヨーロッパ、それに地中海の幾つかの主要な流れの通過点だったと思う。それは今でもそうだ。余りにも多くの文化的要素が入り混じっているものだからアンダーグラウンドの世界一つとっても俺ひとりでその全てを洗い出すのは難しいな。けどこの界隈においてでもユダヤ、アラブ、ケルト・・・それ以外にも沢山の要素が根底に流れているのは疑いようの無い事実だよ。 ただスペインのアンダーグラウンドのバンドは往々にしてヨーロッパやアメリカの真似事に終始しがちで持ち前の文化をないがしろにしているケースが多い。勿論ごくいくつかのバンドは自身のルーツを音楽に反映させていて実際に聴く価値があるバンドほどそういった傾向が強いと思う。これまでに特定の地域において同時多発的に良いバンドが現れたことはあったけど、俺が思うにそれは地域性の強さゆえのことだったんじゃないかな。おまけにそういったシーンほど活動的な連中が多いんだ。
Q: Akihito(3LA水谷)はラーメンが好物です。日本でラーメンはもはやソウルフードの一つともいえるのですが、スペインのバンドマンにとってソウルフードと呼べるものはあるのでしょうか。
Mario: ラーメンなら俺も大好きだよ!最高の食べ物だよね!!こっちのバンドマンにとってのソウルフードか・・・あるとしたらジャガイモのトルティーヤかな。小さいパンも添えられてて、扱ってるお店なら街のあちこちに見かけるよ。“pincho de tortilla(おつまみトルティーヤ)”って呼ばれてる。大抵は“caña”ていう小さいコップに入ったビールと一緒に食べるんだ。これならヴィーガンでも食べることが出来るし、どこでも簡単に腹を満たせられるからもはや習慣といってもいいくらいの食べ物だよ。
Q: 一番好きな食べ物は何ですか?俺は自炊派なのですが、もしあなたもそうなら得意料理は何でしょう?せっかくなのでレシピも教えてください。
Mario: 食べることは大好きだよ。けど料理は得意じゃないんだ、というより酷いもんさ。けどさっき話した“pincho de tortilla”、あれなら作れるしレシピも教えてあげれるよ。作り方は簡単だし、ヴェジタリアンも大丈夫。もっともタマネギが入ってることを嫌う人もいるにはいるけれど(ヴェジタリアンまたはヴィーガンの中には野菜でも球根類は食べてはならないという立場があるためタマネギを避ける人もいる)。レシピは以下の通りだよ。
“pincho de tortilla”のレシピ
材料
・ジャガイモ 4~5玉
・卵 5~6個
・タマネギ 1玉
・塩
・オリーヴオイル
作り方
1. ジャガイモの皮を剥き薄くスライスする。タマネギはみじん切りに。とにかく細かく!ボウルにジャガイモとタマネギを入れる。塩も加える。
2. フライパンにオリーヴオイルをひき、①の中身を弱火で焼く。焦がさないように混ぜながら焼くこと。ジャガイモに火が通れば充分。
3. 空いたボウルに卵を割り塩も新たに加える。
4. 2で加熱したジャガイモとタマネギを3に入れてよくかき混ぜる。
5. フライパンに新たに大さじ一杯程のオリーヴオイルを引き、4の中身を強火で焼く。このときフライパンにくっつかないよう焼きながらフライパンを揺すること。
6. 具材が焼き固まってきたら、皿をフライパンの上にかぶせて丸ごとひっくり返して一度皿にあける。
7. 焼いていない片面を下にもう一度フライパンで焼いたら出来上がり。
簡単だろ!!俺でも出来るんだから!!!(もし味に変化が欲しければトマトケチャップを。訳者ならケチャップにタバスコを加えた即席のサルサソースにしたいところ。そこらへんはお好みで!)
<あとがき>
今から2年程前(※当時の表記、リリースしたのは2014年)にIctusのディスコグラフィをリリースした後日、俺を含めたレーベル関係者で開いたささやかな打上げの席上「日本にいると海外のバンドや作品というものをどうしても“出来上がったもの”として受け身に接してしまいがちだけど、彼らにだっていわゆるライフストーリーみたいなものはあるはず。そういったことが日本のリスナーにも伝わったらもっと良いよね。」といった話が持ち上がった。それ以来、時折思い出しては機会がやってくることを願っては忘れまた思い出すを繰り返してきた。そして3LAのレーベル勃興期からの間柄であるkhmerのいよいよの来日。約束のときは俺にもやってきたのだ。
アンダーグラウンドの音楽事情に仄暗くなってしまってからだいぶ経つ。音楽面についてたずねたとしても浅薄なものにならざるを得ない。そのため書き手または描き手としてのMarioを知ろうと思った。そしてその両者の背景や足場でもある彼自身の国のことや生活について少しでも引き出そうと試みた。レシピの掲載で終わるというすっ呆けた出来映えだがその一つ前の回答も併せて読んでくれたらスペインという国において表現活動に心身を尽くしているひとりの青年の日常の一コマが見えてこないだろうか。俺達が耳にしているkhmerの音楽はそのような生活の実の結び方の一つであるということ。等身大とは何だ。切り口は幾らでもある。インタビュアーとしてそのことだけはどうしても伝えたい。
またインタビューの内容からもわかるように生計維持のため己の表現欲求の実現のためMarioは常日頃忙しく、さらに突っ込んでききたいこともあったのだが時間が許してくれなかったことは白状しなければならない。それでもここに収められたやり取りが俺や3LAにとっては勿論のこと、なによりも全ての読み手にとって“きっかけ以上のなにか”にはなってくれるはずだ。それが単にkhmer及び彼らに繋がる音楽へ接するにおいてでも良い。だがもしそれ以上に個々の生活の様々においてそうなってくれるのならなお嬉しい。
llasushi
(続く)
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イベント情報:
3LA特設サイト : http://longlegslongarms.jp/event/tjla/2018/tjla_2018.html
チケット予約:
特製チケット:http://longlegslongarms.jp/music/products/detail.php?product_id=1207
e+ : https://eplus.jp/ath/word/122334
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